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福岡地方裁判所 昭和47年(モ)118号 決定

申立人 大滝賢士 外一名

主文

本件を札幌地方裁判所に移送する。

理由

(申立の趣旨、理由)

本件申立の趣旨は主文と同旨の決定を求めるというのであり、その理由は別紙申立の理由に記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

一、訴状によれば、本訴請求の骨子は「原告は自動車用品等の卸売を業とする会社であるが、昭和四四年一二月一〇日以降訴外株式会社岩見沢自動車用品に対し、代金は毎月二〇日締切り翌月二〇日払の約定で取引を継続してきたところ、昭和四六年二月一日被告両名は前記訴外会社の連帯保証人として、同会社が前記代金支払約定を遅滞したときは日歩五銭の遅延損害金を支払う旨の特約ほかを付した取引約定により負担することあるべき一切の債務につき、同会社と連帯して保証の責に任ずると共に、本件取引による生ずる紛争につき福岡地方裁判所を管轄裁判所とすることに合意した。ところが前記訴外会社は昭和四六年九月三〇日不渡手形を出したので前記取引約定により残債務全額の履行期が到来した。よつて連帯保証人たる被告両名に対し昭和四四年一二月一〇日以降昭和四六年一〇月末までの間に及ぶ売掛代金残債務金四三一万六五五円とこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで約定の日歩五銭の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。」というものであり、これが立証のためとして商品売買契約書(甲第一号証)、岩見沢手形交換所の証明書(甲第二号証)が添付されている。

二、右各書面と別紙申立の理由の記載を対比して考えると、前記取引は原告会社札幌営業所と前記訴外会社間になされ、商品引渡及び代金決済等もすべて北海道札幌市または岩見沢市でなされたことが容易に窺われ、また、原告会社の主張によつても訴外会社が不渡手形を出したというのであるから、倒産による後仕末をめぐつて債権者集会等紛糾をかさねているのであろうこと及び連帯保証の時期等を考慮すると本訴についても被告両名にそれぞれの言い分があつて簡単には決着をみないであろうことは容易に推測され、したがつて立証の便、これに要する費用等を考えると本訴が札幌地裁で審理されるか当庁において審理されるかは被告らにとつて経済的負担の故に本訴の命運を決することともなりかねないことは経験則にてらして容易に肯認されるところである。ひるがえつて本訴と当庁との関係といえば、単に、前記商品売買契約書第一三条に、訴額一〇万円未満は福岡簡裁に、訴額一〇万円以上は当庁をもつて管轄裁判所とすることに同意するという不動文字による合意管轄の定めがあること、さらに強いて言えば東京に本店を置く原告会社の代表者が福岡市に住所を有する(資格証明用商業用登記簿謄本)という、ただ、それだけに過ぎない。

三、もとより民事訴訟において当事者の合意の尊重さるべきは当然であり、合意管轄の定めに反して民事訴訟法第三一条にいう損害、遅滞を避けるための移送が許されるかについては争のあるところであるが、前叙の如き本訴の特段の性格を考えると移送によつて生ずることあるべき損害、その負担能力における信義公平の要求、訴訟の遅延防止という訴訟公益上の必要からして、これを積極に解すべく、著しき損害と遅滞を避けるため本件を被告らの住所地の管轄裁判所に移送するのが相当である。

四、よつて民事訴訟法第三一条に則り、本件を札幌地方裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 麻上正信)

(別紙)申立の理由

前記当事者間の昭和四六年(ワ)第一、四五一号売掛代金請求事件につき、原告は合意管轄にもとづく管轄裁判所として、御庁に本件訴訟を提起したが、

一、本件請求の原因をなす商品取引は、訴訟に出された書類(訴状、甲一、二号証)によつても明らかなように、原告会社札幌営業所と、訴外株式会社岩見沢自動車用品(岩見沢市所在、以下訴外会社という)との間になされたもので、代金決済、商品引渡も、札幌、岩見沢両市に於てのみなされたものであり、そもそも本件の裁判籍は札幌地方裁判所にあることはいうまでもない。

そして、本件訴訟に於ては、取引金額、返品額に争いがありさらに訴外会社と原告との間に債権債務につき、一部免除、分割支払の合意(他の多数債権者とともに債権者集会で決議し、原告も承諾した)があり、被告としては訴訟に於てこれらの事実を明らかにしなければならないところ、そのためには訴外会社の担当者や、原告札幌営業所の責任者、その他第三者(債権免除、支払猶予などにつき)の証人が必要なところ、いずれも岩見沢市か、札幌に居住しており、御地には一人の関係者もいなく全く縁のないところであり、もしあく迄御庁で審理するとなると、被告らは徒らに多額の費用と日時を要し、さらに訴訟の遅延が生ずることも十分予測され百害あつて一利なく、御庁で審理する必要性は何人も肯定できないところであります。

二、たしかに甲一号契約書の末尾に細い字で、御庁を合意管轄とする旨記載されているが、被告らは正直いつて契約書の内容迄十分読解せず、まして合意管轄を福岡の裁判所にすることの認識がなかつたのが真相である。

原告は東京に本社があり、札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡に営業所があるところ、契約書に於て不動文字でわざわざ福岡を合意管轄としたのは、遠隔の地であるため、争いを十分させずに無理に納得させるために考慮した方法としか考えられないのであつて到底納得しがたいところである。しかも前述のように御庁を管轄とする理由も必要性も絶無であるとすれば事情十分御賢察の上、是非申立のとおり移送されるよう申述べた次第であります。

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